話は、夜勤で、私か追加の下剤を彼女にあげるところから始まりました。精神科の薬は、副作用として便秘をきたしやすく、患者さんの多くは下剤を併用しています。彼女もその例外ではなく、元からの便秘傾向と相まって、日々の排便コントロールにはかなり気を使っていました。一つのことにこだわるとそこから抜け出すのが難しい彼女は、排便が思ったようにないと便が出るまでそればかり言い続け、不安定になります。ただ、そのこだわり方はいわゆる便の話以外に関心が向かなくなる心気症の患者さんのそれとは違っていて、便の話を中心に、話があらぬ方へと展開してはまたそこに戻るところに特徴があります。例えば、便の出が悪いと言っていたはずが、気づくと保険証がなくなった話に展開し、昔の職場でいじめられた話にいき、また便の話に戻る、といった風に。境界性人格障害の人の話は、時によっては本当に何か言いたいのかさっぱり伝わりません。分裂病の人の理解不能な話と違って、内容自体はおかしくない。しかし、その脈絡が何とも不可解でとらえどころがなく、聞き手がその方向性をコントロールすることが非常に難しいのです。病棟のベッド数は二九。夜間は病状も考えつつ夜勤者二人が分担してお世話します。この時私は担当する約二十名の患者さんの眠前薬を配っている途中でした。