毎年建てられている日本の住宅は年によって増減はあるが、おおむね三戸に一戸は住宅金融公庫の融資を受けている。公庫融資を利用する理由は、金利が低く、長期返済が可能であることなど、他の住宅ローンに比べて有利な条件で借りられることが大きい。加えて「公庫が利用できる住宅は安心できる」という側面もある。民間金融機関が融資を決定する基本的な条件は、利用者に返済能力があるかどうか、融資の対象物件に担保価値があるかどうかである。対して公庫融資は利用者の返済能力も審査するが、対象物件の審査では、担保価値よりも、その物件が住宅として最低限の居住性能を有しているかどうかに重きを置いている。マンションでいえば、上階と下階を隔てるコンクリート床(スラブ)や隣り合う住戸のコンクリート壁の厚さが一定以上あるかどうか、住宅面積が一定以上あるかどうかなどが審査されるのである。また、その住宅の居住性能に応じて貸し出し金利を優遇したり、融資額を増額する割り増し制度もある。当時の全企業平均の現金給与総額は一万円、公務員給与では国家公務員一般職で六三○七円、大学卒の初任給平均(民間)は三四五〇円。さらに東京における一世帯当たりの平均家計支出は一万四四七一円で、このうち食費が七八九六円とエングル係数は五〇%を超えていた。つまり、この時期に公庫を利用できた人は収入面でかなり恵まれていた層だったのである。