ぼくは、そう屁理屈をつけた。保健所と病院は十キロと離れていない。ふだんなら、車で十分ほどの距離だ。それが、急いでいるときにかぎって道は渋滞する。三十分かかって、やっと病院にもどりついた。白衣にも着替えず、そのまま病棟に走っていった。病室では、同僚の池山医師が心臓マッサージをしていた。「どうもすみませんでした。で、……」「今はかすかに動いているよ、一度止まったけどね」彼は、そう耳打ちした。心臓マッサ
ドクターは元気かね。まだあの病院であくせく働いてい... の続きを読む
時々ウェブサイトを閲覧していると、「このページを閲覧する場合プラグインをダウンロードする必要があります」と表示されることはありませんか?これをリッチクライアント、と言います。今まではシンクラウドと言って、クライアント側の処理を必要最低限に抑え、代わりにほとんどの処理をサーバに集中させるという方法が取られてきました。しかしより豊かな表現のために、クライアント側で行えることはどんどんクライアント側で処
リッチクライアントとその必要性... の続きを読む
話は、夜勤で、私か追加の下剤を彼女にあげるところから始まりました。精神科の薬は、副作用として便秘をきたしやすく、患者さんの多くは下剤を併用しています。彼女もその例外ではなく、元からの便秘傾向と相まって、日々の排便コントロールにはかなり気を使っていました。一つのことにこだわるとそこから抜け出すのが難しい彼女は、排便が思ったようにないと便が出るまでそればかり言い続け、不安定になります。ただ、そのこだわ
心気症の患者さん... の続きを読む
手首を切って外来に来る人は、とても多くみられます。その多くの人は、何度も繰り返し切ります。ためらい傷といって、ごくうすい傷を何本もつける人が多いのですが、中には深く切って、縫合が必要になる人もいます。なぜ切るのかと聞いて、はっきり答えられる人は案外少数です。「死のうと思って」と答える人ももちろんいますが、むしろ「なんとなく」という答えのほうが多い印象があります。切るのは、痛いと思います。実際、見る
精神科面接の、むずかしくもあり、面白くもあるところ... の続きを読む
3年が過ぎたある秋の夜、Y氏は群馬の山村に住む継母からの電話で起こされた。すでに5、6年前から脳梗塞で寝たきりになっている父の容態がおかしいとのことだった。常用している睡眠薬のせいで頭がぼんやりしていたので妻に車の運転を頼み、1時間ばかりで実家に着いた。県境の峠を越え、浅間山麓の暗闇を走る車の中で、Y氏は墓のことばかり考えていた。墓がない、と。幸い父は軽い肺炎を起こしていただけだったので、となり町
父が病気になる... の続きを読む